起業や脱サラって、ワクワクする反面、どうしても不安がついてまわるもの。
「本当にお客さんは来てくれるだろうか」「事業と家計のお金はちゃんと回るかな」…そんな気持ちを抱えながらスタートする人も多いと思います。
そして、その不安は本人だけでなく、そばで支えている妻にとっても同じはずです。
「生活費は大丈夫?」「子どもの教育費やローンの返済はどうなるんだろう」「夫が忙しくなって、家事や育児を手伝ってくれなくなったら…」──そんな心配ごとは、決して小さなものではありません。
実際のところ、事業のお金のことを夫婦で話し合えないままでいると、お互いに対する信頼がだんだんと失われていき、せっかくのチャレンジなのに家庭の空気までギクシャクしてしまうことも…。
この記事では、起業家の夫とその妻がそれぞれ抱える不安を整理し、放置するとどうなるか、そしてどうすれば解消につながるのかを一緒に考えていきます。最後には「夫婦で一緒に未来を見える形にすること」の大切さについても解説します。
Contents
起業家本人が抱える不安
起業をするとき、多くの人が胸を躍らせながらも、心の奥ではいろいろな不安を抱えています。ここでは、起業家本人が抱えがちな不安について、3つの観点に分けて整理してみましょう。
売上に対する不安
「本当にお客さんは来てくれるのだろうか」「仕事の依頼はあるだろうか」──起業したあとの売上の確保こそ、誰もが真っ先に感じる不安です。
商品やサービスに自信があっても、市場の反応はふたを開けてみないとわかりません。特に開業当初は、売上が安定せずに波が大きくなることが多いため、「来月もこの生活を続けられるかな…」という気持ちが頭をよぎるのは当然のことです。
事業資金に対する不安
売上が安定しないなかでも、家賃や仕入れ、光熱費などの固定費は毎月必ず出ていきます。
「資金ショートしたらどうしよう」「融資を返済できなかったら…」という不安は、ときには夜眠れなくなるほどの大きなストレスにつながることもあります。特に自己資金が限られている場合や、資金繰りが安定しにくい創業当初では、キャッシュフローは1日たりとも気を抜けない大きな悩みの種となるでしょう。
日本政策金融公庫が公表している『2024年度新規開業実態調査』によると、開業時に苦労したこととしては、「資金繰り・資金調達」が59.2%、「顧客・販路の開拓」が48.1%であり、起業家の多くが売上の確保や資金繰りに奔走していることが伺える結果となっています。
責任に対する不安
起業した瞬間から、事業主は「経営者」という立場になります。自分の判断ひとつで事業が傾く可能性もあるし、もし従業員を雇えばその生活も背負うことになります。
さらに家庭の視点でいえば、「世帯主として家族を養わなければならない」という責任も同時に重くのしかかります。特に小さな子どもがいる場合や、住宅ローンの返済などの負担がある場合には、心理的な負担をより一層感じやすくなるでしょう。
「事業主としての責任」と「世帯主としての責任」による二重のプレッシャーは、決して軽いものではありません。
起業するときにさまざまな不安を抱えるのは、とても自然なことです。
むしろ「不安を感じるからこそ、先を見据えて準備できる」と考える方が正しいと思います。
また、自分自身の不安に目を向けるだけでなく、そばで支えてくれる妻が感じている不安や葛藤にも気を配ることが大切です。
妻(パートナー)が抱える不安
夫が起業する場合には、そのそばで支える妻にとっても生活が大きく変化することを意味します。
とはいえ、「起業によって何がどう変わるのか」を事前にイメージすることは難しく、モヤモヤとした言葉にできないような不安を持つケースも少なくありません。
ここでは、起業家夫の妻が抱えがちな不安について、3つの視点から整理します。
家計に対する不安
一番大きいのは「これから家計はどうなるの?」という不安です。
会社勤めであれば、毎月ほぼ同額の給与収入が入ってくる人も多いですが、起業後の収入は波が大きく、不安定になりがち。そのうえ、事業が上手くいっているのかどうかも確かめられず、今の生活を維持することに不安を覚えるパートナーも多いでしょう。
ましてや、小さな子どものいる家庭では、妻がパートで働くことも難しく、夫の収入に頼らざるを得ないケースが大半です。そのような状況では、「家賃やローンは払えるの?」「教育費はちゃんと蓄えられるかな…」など、起業後の家計に対して不安を覚えるのは当然のことです。
ライフスタイルの変化に対する不安
起業すれば、夫自身も収入面での不安を抱えていたり、起業したことによる高揚感を感じていたりすることで、仕事に多くの時間と労力を割くようになりがちです。
そのため、夫が起業することで「これまで一緒にしていた育児や家事の分担はどうなるんだろう」「私ひとりに負担が集中するのでは…」というように、家庭内の生活環境が変化することに不安を覚えることもあるでしょう。
特に起業前の段階では、「起業によって夫の働き方がどう変わるのか」をイメージしづらいため、「夫が仕事のことで頭がいっぱいで、家庭に目を向けなくなるかも…」というモヤモヤした気持ちが生まれることも多いです。
パートナーとしての葛藤
数字で表せるようなお金の不安とは別に、「漠然とした不安」もつきまといます。
「この先どうなるんだろう」「本当にやっていけるのかな」──将来への見通しが立たないこと自体が強いストレスにつながります。
また、妻としては「夫の夢を応援したい」という気持ちがある一方で、ともに家庭を支えるパートナーとしては、生活や収入面での不安を感じ、「手放しに賛成できない」という葛藤も…。
そのような複雑な感情を持つことは至極当然なはずなのに、「いい奥さんだったら、旦那の夢を応援するものだ」と妻としての理想像を自ら追い求めすぎるあまり、自己嫌悪に陥ってしまうケースもあるため注意が必要です。
起業は夫婦にとって新しい挑戦であると同時に、人生の大きなターニングポイントでもあります。
子どものように守るべき存在が多いほど、起業家の妻として、さまざまな不安を感じることは何もおかしなことではありません。
起業に対する夫の想いを汲み取るだけでなく、自分が感じている不安をしっかりと伝えることも、お互いにとって大切です。
不安を放置するとどうなる?
起業にともなう事業や家計に関する不安は、誰にでもつきまとうものです。
ただ、それを夫婦間で話し合ったり共有したりせずに、自分だけで抱え込んでしまうと、ビジネス・プライベートの両方に対して大きな影響を及ぼすこともあります。
孤立しがちな夫
事業に対する不安は、起業前後だけでなく、起業してからも多かれ少なかれ続いていくケースが多いです。同僚や先輩、上司に囲まれていた会社員時代と比べると、起業したあとは何でも話せるような相談相手がおらず、以前よりも愚痴や悩みを打ち明けることが難しくなりがちです。
日本政策金融公庫が公表している『女性による新規開業の特徴』によると、相談相手として「配偶者」を挙げた起業家は男女ともに約4割となっており、起業家にとっての配偶者の大切さが伺える結果となっています。つまり、妻に話せない・共有できないという状況は、経営者にとって大切な相談相手を失ってしまうことを意味します。
たとえば期待どおりに事業が軌道に乗っていないときに、最も身近なパートナーに不安を口にできないまま、起業家本人がひとりで抱え込んでしまうと、より一層孤独感が強まってしまいます。そのような孤立した状況が続けば、次第にモチベーションが下がったり、間違った選択をしてしまったりするリスクも高まるでしょう。
事業への不信感が募る妻
一方で、起業家の妻としても「お金の見通しが立たない」「今後の生活がどうなるのかわからない」ままでは、不安ばかりが膨らんでいきます。同じく起業した夫を持つ友人などがいれば、自分の悩みを気軽に打ち明けられるかもしれませんが、会社勤めの場合には、なかなか相談しづらいケースも多いでしょう。
家庭内での心配や不安は、やがて「応援したい気持ち」と「不安な気持ち」の板挟みを生み出し、気持ちのすれ違いにつながりかねません。そのような状況が長年続くことで、いつしか事業への不信感を持つようになり、最終的には夫との信頼関係が失われてしまうことも珍しくありません。
夫婦関係のすれ違いへ
お互いに相手を思い遣っているからこそ、「言わないで心にしまっておこう」と考えてしまうこともあります。
しかし不安を共有せずに抱え込むことによって、かえって夫婦間の溝を広げてしまうことも…。
仕事のやりがいや収入アップなど、より良い暮らしを目指した起業のはずなのに、それが夫婦関係の悪化につながってしまっては、まさに本末転倒といえるでしょう。
「不安を感じること」が悪いのではなく、それを「自分ひとりで抱え込んでしまうこと」がトラブルの原因に。
お互いが不安に感じていることを共有し、解消に向けて丁寧に話し合うことが大切です。
不安を解消するための方法
起業にともなう不安をゼロにすることはできません。しかし、「事業」と「家計」の両方から計画を立てることによって、不安を軽くすることは可能です。
ここでは、夫婦でできる代表的な対策をいくつか紹介します。
家族のライフプランを描く
起業するにあたっては、事業のことよりも、まず真っ先に「家族としてのライフプラン」を考えましょう。
「マイホームは欲しい?」「子どもの教育費はいつまでに・どのくらい必要?」──こうした生活に直結するテーマを数字に落とし込んでいくと、ライフプランを実現するために必要な「稼ぎ」が見えてきます。
具体的には、「ライフイベント表」を作成し、住宅購入・子どもの進学・老後資金といった将来の支出を時系列で可視化しましょう。そのうえで、キャッシュフロー表を作り、「事業収入と家計支出のバランス」をシミュレーションすると、その後の事業計画作成にも役立ちます。
事業計画を作成する
事業に関しても、売上や経費を見積もって計画に落とし込むことで、新たな発見が生まれやすくなります。
作成した事業計画を家族にも共有することで事業内容や考えている方向性がわかるため、一定の安心感が生まれます。
また、あらかじめライフプランを作成しておくことで、「家計を維持するために必要な稼ぎ(利益)の目安」が見えてきます。事業計画を作成する段階で、その利益を確保するための青写真を描けないのであれば、ビジネスプランの見直しが必要となるでしょう。
具体的には、日本政策金融公庫による創業計画書のフォーマットを用いて、「収支計画」や「資金計画」を作成しておくと安心です。計画が数字に落とし込まれることで、起業に対する漠然とした不安がクリアになり、「どの項目を見直せば良いか」という課題に変わります。
バックアッププランを用意する
起業においては、夫婦ともに「事業がうまくいかなかったとき」に対する不安が最も大きいことでしょう。
起業の不安を軽減するためには、事業が思い通りに進まないときに備えて「予備の選択肢」を用意しておくことも大切です。たとえば、「1年経っても売上が伸びなければ、転職活動を検討する」「預金残高が○○円を下回ったら、妻がパート勤務の日数を増やす」といった具合です。
バックアッププランというとネガティブに聞こえるかもしれませんが、「いざというときの対応策」として具体的な約束事を決めておくと、夫婦がお互いに安心して起業に向き合いやすくなります。
せっかく計画を立てても、その後の進捗を夫婦間で共有できなければ意味がありません。
月に一度、クラウド会計ソフトやエクセルなどを用いて一緒に状況を確認するだけでも十分です。
数字を見る習慣ができると、事業や家計について自然に話すキッカケが生まれ、数字と気持ちをセットで共有できるようになります。
共有することで変わること
起業に対する不安をひとりで背負い込むと、経営者もパートナーも次第に疲弊し、孤立感を深めてしまいます。
反対に、夫婦や家族のあいだで「事業と家計をシェアする」ことによって、状況は大きく変わることでしょう。
「起業家本人だけの目標」から「夫婦の夢」へ
起業を決意したとき、多くの場合その目標やビジョンは、起業家本人の中に強く根付いています。「スキルや経験を活かした事業を始めたい」「世の中に貢献したい」という想いは素晴らしいものですが、家族やパートナーからすれば、その目標がどんな意味を持ち、わが家の暮らしにどうつながるのかが見えにくいものです。
しかし、事業計画やライフプランを夫婦間で共有することで、起業家ひとりの想いは「家族全員の夢」へと姿を変えます。「事業の成長や発展」が「家計や生活の安心につながる」ことをイメージできたとき、パートナーにとっても起業を応援する気持ちがより大きくなります。
「夫の夢を支える」のではなく「私たちの夢を一緒に育てていく」という感覚に変わることで、不安の種は小さくなり、前向きな協力関係が生まれやすくなるでしょう。
お互いの「理解」が信頼につながる
起業する夫にとっては「事業が思い通りにいかない」ということを素直に伝えるのはとても勇気のいることです。同じように、妻にとっても「家計が心配」と口に出すのは気が引けることもあるでしょう。
そこで、月に一度の「家族会議」を開き、事業や家計の状況について一緒に話す機会を設けることで、気持ちのズレは驚くほど減っていくでしょう。
また、心理面で何よりも大きいのは、「事業のことは夫、家計のことは妻」という分断がなくなることです。パートナーが「一緒に未来を考えてくれている」という実感は、不安を小さくするだけでなく、挑戦への大きな支えになります。
安心して未来を描くために
起業は新しい挑戦であると同時に、不安やプレッシャーとも隣り合わせです。
本人にとっては「売上や資金繰り」、妻にとっては「家計や生活の変化」──お互いに異なる視点で心配を抱えがちです。
しかし、起業にともなってライフプランや事業計画を作成し、夫婦間で進捗状況を共有することで状況は大きく変わります。
漠然とした不安が「この数字を見れば安心できる」「このタイミングで対応すれば大丈夫」という意識に変わることで、事業にも家庭にも前向きな空気が生まれることでしょう。
「事業」と「家計」は、決して別々のものではありません。
両方をつないで「わが家の未来」として思い描くことが、起業を成功に導くための大きな原動力となるはずです。
弊所では、そんな「事業と家計をつなぐ」ためのサポートとして 「私たちのゆとり計画」 をご用意しています。
- 事業と家計の現状を整理して“見える化”
- 家族みんなで将来のライフプランを共有
- 「もしも」のときのバックアッププランづくりも一緒に
単なる会計や税務の枠を超えて、「夫婦や家族で安心して話せる時間」を提供するサービスです。
もし「不安をひとりで抱え込んでしまっている」と感じたら、一度お気軽にご相談ください。
一緒に、わが家だけの未来地図を描いていきましょう。
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